こんにちは、たき子です。
今回書くのはたき子の身内の死です。
特別な死ではなく特別な人生でもない平凡な一人の男性ですが個人的に書き残しておきたいと思いました。
まさかの連絡
突然の電話だった。
電話の相手が、何年かぶりに声を聞いた親戚だとわかったとたん良くない報せだと察知した。
咄嗟に浮かんだのは老人ホームに入居している彼の妻だったが、意外にも彼の口から出たのは彼の息子Dの名前だった。
「Dが倒れて救急搬送されたんよ」
え?Dが?
「脳出血で意識がないねん」
脳出血?
でも確かまだ30代後半のはず。
夕飯のカツカレーのカツを揚げている最中に突然倒れ、緊急手術を受けたが意識はなく手のうちようがないのだと電話の向こうのDの父が弱々しい声で語った。
大阪から2時間半。間に合いますようにと願いながら病院へ向かう。
車窓から見える風景はどんどん山に近くなり川を越えてしばらくすると病院の最寄り駅に到着した。
ICUで人工呼吸器をつけられたDは穏やかに眠ってるようにしか見えなかった。
Dの父と共に担当医からの説明を受けた。
脳の被殻という部分から大量の出血を起こし手術で血の塊は取れたものの脳が腫れ脳幹を圧迫し脳幹の反応が見られないとのことだった。
病院までの長距離を搬送される途中で心停止していた時間もあり回復は望めないだろうということだった。
可愛らしいビースト
Dはたき子の従姉妹の息子にあたる。
生まれたときから知っている、いわゆる「アンタのオムツ替えてあげた」存在だ。
たき子はDを年の離れた弟のような感覚で可愛いがったし、成長してからはDがたき子の息子を可愛がってくれた。
あれは確かが高校に入って初めて携帯電話を買ってもらった時のことだったと思う。野獣って英語で何て言うの?と聞かれた。
野獣?ビーストかな?
そして彼のメールアドレスはbeast〇〇@○○.jpになった。
背は高かったが何だかんだいって高校生の体格で顔もまだ幼く、ずいぶん可愛らしい野獣だと微笑ましかった。
勉強机の鍵のついた引き出しはいつもキッチリ鍵がかかっているのでエロ本でも入れてるのかと思ったら映画「プリティウーマン」のビデオだったとDの母である従姉妹が笑いながら話したこともあった。
プリティウーマンは高校生の男子には刺激的な映画だったのだろうか。
希望の星だった
Dには姉がいるが未熟児で生まれたため脳性まひが残り心身の成長が1歳ほどで止まっている。
今の新生児医療なら障がいを残すのことなく育ったかもしれないが当時の医療では叶わなかった。
たき子の従姉妹は二人目の子どもを熱望。障がい児を抱えているため回りは反対したと聞くがやがてDが弟として生まれた。
Dは健康そのもので明るく家族の希望の星だった。
Dちゃん、Dちゃんと誰からも可愛がられる存在で、ぐんぐん背が伸びて180cm、100kgを超える巨漢になってもそれは変わらなかった。
主成分「優しさ」
だけど月日と共にDの家族には次々と試練が訪れる。
姉が車椅子生活なのに加え父も脳梗塞になり心臓にペースメーカーを入れ、さらに母が認知症を発症した。
家族の中で健康に不安がないのはDだけだった。
そんな中、Dは就職も結婚もせず(自宅でパソコンを使った仕事は多少していたようだが)家族のサポートをしながら暮らしていた。
あまり後先考えない性格であったのは事実かもしれないが、環境がそうさせなかったことも多分にあったのだと思う。
やけくそになってもおかしくないそんな状況下なのにDはただ黙々と自分の運命を受けいれているように見えた。
穏やかな優しい男だったのだ。
昨年評判になったドラマ「silent」の登場人物ミナトくんの事を“主成分優しさ”と主人公の川口春奈が表現していたけれどDの主成分も同じく優しさだったと思う。
Dの葬儀
倒れて10日目にDは還らぬ人となった。
「裏表のないやつ」
「口数は多くないけど話をいつまでも聞いてくれる」
葬儀に参列してくれた友人が語るDの人柄はたき子が知るDと何の差異もなかった。
少年野球時代から大人になっての草野球までずっとキャッチャーだっ彼は生まれながらの受けとめる人だったのかもしれない。
お経をあげてくれた住職は少年野球時代からの幼馴染だった。
幼馴染の住職はDに優しいの「優」の字の入った戒名をつけてくれた。
すっぽんぽんでウルトラマンのポーズをキメてみせる幼いDの笑顔が脳裏をよぎる。
ただやり切れない思いが波のように押し寄せる。
これは反則だ!
あんたの葬儀などに参列したくはなかった。
順番を飛ばしてはいけないのだ。
先にお迎えが来るべき人間はたくさんいるのにそんなとこで急がなくてよいのだ。
心優しきビーストの若すぎる死を心から悼む!